MICHAEL JACKSON - INVINCIBLE
■私の洋楽デビュー作
中学の頃から洋楽を聞き始めて、様々な音楽を聴いてきました。
今日は私事な思い出アルバムをレビューします。
私が洋楽にハマったきっかけはマイケル・ジャクソンです。
一番初めに買ったのは「インヴィンシブル」というアルバム。
マイケルにとって最後のオリジナルアルバムです。
インヴィンシブルの特徴を幾つかあげます。
■久しぶりの全曲新曲アルバム
前作の「ブラッド・オン・ザ・ダンス・フロア」は1997年の作品。
前作及び前々作の「ヒストリー」は少し特殊でした。
この2作品は新規曲+過去曲、という構成になっているのです。
ヒストリーは15曲の新曲が1枚、15曲の過去ヒット曲が1枚の半ベスト盤となります。
(後にベスト盤だけが枝分かれして単品アルバムとなっています)
ブラッド・オン・ザ・ダンス・フロアは1枚の中に5曲が新曲で、他にヒストリーからの曲をリミックスが入っています。
つまり全曲新曲であるアルバムは91年のデンジャラス以来、 20年振りになります。
私個人の考えですが、
前々作・前作は売上として正面対決していないのではないかと思います。
ヒストリーはベスト盤だから売上が膨らむ事が期待できます。
(もしくは2枚組である事で売上が減る可能性もあるでしょう)
一方でブラッド・オン・ザ・ダンス・フロアは新曲5曲ではミニアルバムのボリューム、またリミックス盤といえば少しマニアックな客層がターゲットになります。
デンジャラス以降のマイケルが90年代後半~00年代という時代に対して存在感を出せるのか、その真価が見えづらいアルバムだと言えます。
※ただ流石はマイケル。前作・前々作共に出来栄えは素晴らしく、売上も凡百のアルバムの比にならない程売れました。
マイケルのこのアルバムに対する力の入れ様は凄まじく、アルバム16曲を選抜するにあたって、100曲以上の候補曲が作成されました。
マイケルここにあり!を示したかったのでは無いか、と推測しています。
80年代にマイケルとしのぎを削ったライバルであるプリンスも90年代後半は名前を変え、レーベルを出て、大変沈んだ時期でした。
グランジが出て、よりラウドネスになり、ブリッドポップが出て、すぐ彼らもよりヘヴィなサウンドを志向し始めました。
R&Bの分野ではディアンジェロやエリカ・バドゥを始めとしたネオソウルという潮流が起きて、00年代前半にピークを迎えます。
業界の加速的な変化に対して、マイケルここにあり!…非常に難しい話です。
マイケルはそんな中で全曲新曲の気合十分なアルバムは放ったわけです。
■マイケルでなくても歌える曲
こんな見出しをつける人はあまりいないです…。
ただ私はそう感じました。
マイケルは、マイケルここにあり!を、
マイケルというスターをスター然としてうつさない
事で逆説的に表そうとしたのではないかと。
80年代には異次元のスターアイコンとなるアーティストが多くいました。
90年代、特に90年代後半から今までで、そうしたスターアイコンはぐっと減りました。
ニルヴァーナはアイコンですが、スターである事を自ら拒否しました。
ヒップホップの世界はビッグネームを批判し、自身がストリート出身である事を誇示します。
プリンスは「MY NAME IS PRINCE」という曲を歌い、そうして流れに正面から対抗したスターです。
しかしマイケルのこのアルバムは、過去のアルバムほど「マイケルである事」を押し出していないように思います。
「THRILLER」や「BAD」のような、マイケルのキャラクター性と併せ持って強力なポップとなる曲はありません。
デンジャラスの「JAM」のように、マイケルのライブスタートを切るようなマイケルパワー満点な威勢の良い曲もありません。
このアルバムで打ち出している音は、マイケルのキャラクターに寄りかからなくても戦える強い曲なのです。
トップを飾る「UNBREAKABLE」は当時の最新R&Bらしい曲です。
90年までのマイケルの曲と少し装いが違います。
「HEARTBREAKER」もリズムの跳ね方がこれまでの作品と異なります。
「2000 WATTS」でマイケルは声をあえて低くして歌っています。
また、これまでの曲調に無い、サンタナ感がすごい「WHATEVER HAPPENS」も、マイケル・ジャクソンだという主張が薄いです。
加えて、アルバム全体にいえますが、マイケルらしさの1つである「アオー!」「ダッ!」と言ったようなアクセントもあんまり乗せていないんです。
スリラーやバッドではとりわけ多かったですよね。
ねとらぼ マイケル・ジャクソンのMVから音楽を抜いて「フー!」「アオッ!」とかの声だけ残すとただの変質者
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1403/29/news003.html
そして本作品はバラードが多いのも特徴です。
しかも「HEAL THE WORLD」や「HISTORY」のような曲にみられる世界系(映像作品みたいな言い方ですが…)ではなく、あくまで個人に対するラブソングが多いです。
つまり、これまでのようなマイケルのダンスありき、アクセントありき、世界観念ありきではなく、純粋に良い歌を良い声で聴かせてやるぞ、という本腰作品なのです。
またも私的な意見ですが、
マイケルはマイケルを脱したかったのかな、とも思います。
ハードなライブやダンスパフォーマンス、私生活の言動やスキャンダル、といった全ての物事から離脱して、真っ新な状態の作品作りをしたかったのかと。
(この点は「マイケルここにあり!売上をだしてやる」という気持ちと少し矛盾している気もします。しかし、矛盾する2つの気持ちを持つ事は、人を苦しめますがあり得る話です)
その中で生まれた傑作が「BUTTERFLIES」です。
非常に普遍的で、2020年現時点でも古さを感じない曲です。
その上でマイケルの歌唱力の素晴らしさを感じる事ができます。
マイケルじゃなくても成り立つものでありながら、マイケルここにあり!を存分に発揮している訳です。
■集大成の1曲
一方で過去のマイケルを順当にアップデートさせた傑作もあります。
それはアルバムの6曲目「YOU ROCK MY WORLD」です。
この曲は1stシングルになり、全世界で売れました。
冒頭ではPV共演したクリス・タッカーとの掛け合いがあります。
クリス・タッカーがマイケルの物まねをして、マイケルが笑いながら応じるというもの、ここでは上述した事とは逆で、マイケルをスター然としてうつしています。
強力なダンスソングです、特にPVが過去を総ざらいした内容に仕上がっています。
Michael Jackson - You Rock My World (Shortened Version)
マーロン・ブランドが出てくるなど「ゴッド・ファーザー」を意識したPVで、
マイケルは「SMOOTH CRIMINAL」のような扮装(ただし今回は黒+赤の大人な装い)で登場します。
女性を1曲通して追いかける姿は「THE WAY YOU MAKE ME FEEL」のPVのようです。
「BILLIE JEAN」との類似性を感じている方もいます。
PVでの各人のセリフからも様々な過去作品のタイトルが出てきます。
これらの特徴を”焼き直し”だと言う意見もあれば、私のように”集大成”であると考える人もいます。
私はこの曲のなんとも言えない冒頭から続くピアノリフが好きです。
バックリズムは何故かピーターパンのワニが飲み込んだ時計を思い出してしまいます。
あと「YOU ROCK MY WORLD」という単語の並びにも当時痺れました。
この言い回しの意味が分からなかった。
(今でも日常で使う言葉なのか私は知りません。)
何となく「あなたが私の殻を壊したのだ」といった意味合いで受け取っています。
ただこの曲名の持つ自立性は「BEAT IT」と似ています。
BEAT IT=ずらかっちまえ、な訳ですが、邦題である「今夜はビート・イット」のように、ここで目立つのは「ビート」という単語の強さなのです。
「DON'T STOP TIL YOU GET ENOUGH」はどんな歌詞を歌っていても「ドント・ストップ」な勢いだから「今夜はドント・ストップ」なのです。
それらと同じく、「YOU ROCK MY WORLD」の圧倒的な「ロック」という単語の自立性、この曲が80年代に出ていたら「今夜はロック・マイ・ワールド」という訳の分からん邦題になっていたかもしれません。
上と矛盾しますが、これははっきりマイケル然とした名曲です。
私は先に述べた2つの矛盾した思い(過去のマイケル並みのモンスター売上を目指す姿と、90年代後半から特に強くなり自身としてもその立場に憧れがあったろう1アーティストとしての作品性)のどちらもアルバムには表れているのではないかと思います。
■まとめ
色々と述べましたが、これは客観性を欠く私の感想が多いです。
当時からインタビューが少ないマイケルなので、様々な方が自身の意見をブログで載せています、根拠の強いものから憶測度の高いものまで。
しかしそうした方々の共通観としてマイケル愛という物は間違いなくあるでしょう。
私はこのアルバムで表現されている普遍性を愛しており、その思いは約20年が経とうとしている今でもまるで褪せる事が無いです。
もし少しでも興味を持って頂けましたら幸いです。
ほんとうに、素晴らしく作り込まれたアルバムなんです。
買いですよ。