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mameという男がやりたい事をやっている記録

PRINCE - MUSICOLOGY

■PRINCE復活作

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プリンスは私の最も愛するアーティストです。
中学時代に好きになり、以降どっぷりとプリンス沼に浸かっています。
プリンスが亡くなった年は、同年のDボウイの死も併せて深く悲しみました。


私にとってプリンス初体験はベストアルバムでした。

ヴェリー・ベスト・オブ・プリンス

ヴェリー・ベスト・オブ・プリンス

  • アーティスト:プリンス
  • 発売日: 2001/09/27
  • メディア: CD

次に聴いたアルバムが、今回紹介する「ミュージコロジー」です。
当時の最新作でした。(2004年発表)

MUSICOLOGY

MUSICOLOGY

  • アーティスト:PRINCE
  • 発売日: 2019/02/19
  • メディア: CD


見出しに書かせて頂きましたが、本作はプリンスの復活作と捉えられています。
ちょうどプリンス再評価の流れが音楽業界にある時でした。
同年に「ロックの殿堂」を受賞した事が当時の状況を端的に表しています。


同年の受賞者にジョージ・ハリスンがいました。
ジョージ・ハリスンは既に亡くなっており、ロックの殿堂ではプリンスを含む豪華メンバーで追悼曲「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」を歌っています。
その場でプリンスが披露したギターが当時話題になりました。
(他の出演者と明らかに温度感の違う凄まじい演奏でした…)

Prince, Tom Petty, Steve Winwood, Jeff Lynne and others -- "While My Guitar Gently Weeps"


またグラミー賞の受賞式でのビヨンセとのパフォーマンスも2004年です。
「LET'S GO CRAZY」など往年のヒット曲を演奏しました。

004 Prince & Beyoncé Prince Medley


プリンスの現役感が、プリンスから遠ざかっていた人にも広く伝わりました。
もっとも、恐らく当時のプリンスファンからすると、

「殿下は昔から今まで何一つ変わってないよ!」

という気持ちだったのでは?


私が後追いでリリースアルバムを追っていくとそう思わざるを得ません。
前作「RAINBOW CHILDREN」(2001)は別種の傑作です。
しかし殆ど話題にならなかったと聞いています。
また、今作と並行してこそっとWeb配信された2作品
「THE CHOCOLATE INVASION」および
「THE SLAUGHTERHOUSE」。
こちらもかなり質が高い上に挑戦的な内容ながら、話題にならなかったと聞いています。
(この2作品、私は後追い故に聴く手段がありませんでした。プリンスが亡くなった後にApple Musicから配信された事で全貌を知りました)


今作は、大傑作「PURPLE RAIN」発表から20年後に出た作品です。


「PURPLE RAIN」からのおよそ10年間(「LOVE SYMBOL」の頃まで)、プリンスは音楽業界をほぼ自分の思うままに動いていました。
世界中が彼の動向を注目し、1作品ごとにプリンスやその音楽性に関わる価値観をアップデートさせていました。
膨大な楽曲を発表して、その上その全てがオリジナリティ溢れる作品であり、チャートアクションも容易く実現する。
その上、数多くのプリンスの息のかかったアーティストがチャートを賑わすオマケ付き。
後追いの私が思うに、90年代に小室哲哉プロデュース曲が日本のチャートを席捲していた状態、あれを世界レベルで成しえていたのです。


しかし、その後の10年間は深く沈む事になります。
要因は色々あります。
レコード会社との確執、その末に改名、結婚相手(マイテ)との掛け合いが他人の共感を得にくい領域であった、子供との死別、マイテとの離婚…。
ただ私は、それらの要因よりもプリンス自身の音楽性と時代が噛み合わなくなっていた事が問題な気がしています。
プリンスが示した音楽性と違う方向に時代が進みだした、例えばヒップホップの潮流です。
またマイケル・ジャクソンの記事でも書きましたが、80年代にはスター・アイコンが重宝されたのが、90年代以降はむしろ新規アーティストに揶揄される存在になってきた事もあります。
mame-mame.hatenadiary.com


そしてプリンス自身も90年代から新しいバンド体制で、ある形のファンク・ラップ系統を展開していく事になります。
先に述べた「THE CHOCOLATE INVASION」、「THE SLAUGHTERHOUSE」はその方向性での作品と言えます。


今回紹介する作品ミュージコロジーは、

プリンスがやりたい事でなく、自分がやらねばならない事に集中した作品

なのではないかと思っています。
そしてそれこそがプリンスが時代と再び調和し、「復活作」と呼ばれるに至った理由だと考えます。


プリンスは今作のタイトルを「音楽学」としました。
そしてタイトル曲の歌詞で様々なファンクの先人達の名前や曲を引用しました。
タイトル曲のラストでは自身の過去の曲すら引用します。
加えてこの曲のPVは、プリンスの少年時代ともとれるアフロの少年がレコードを買い、自分の活躍を夢見ながら自室でギターを弾く姿を映しています。
プリンスはこの作品から明確に「ファンクの継承者」としての立場を背負うようになったのです。

Prince - "Musicology" (Official Music Video)


このような傾向は、実は前々作の「RAVE UN 2 THE JOY FANTASTIC」の頃のライヴから現れています。
このライヴでは、ラリー・グラハムなどのファンクの先人をゲストに呼びつつ、ディアンジェロなどのプリンスフォロワーも呼んで一大ファンクパーティーを作っています。


今作が強調したのはバンドサウンドでもあります。
プリンスは当時、昨今のアーティストは実際に演奏した音の素晴らしさを知らない、打ち込みに慣れすぎている、とコメントしたそうです。
が、(特にドラムの)打ち込みに傾倒したのがプリンスだったのでは…とも思ったり(笑
とにかくプリンスは意識的にファンクの継承者としてこのアルバムを仕上げました。
「THE CHOCOLATE INVASION」、「THE SLAUGHTERHOUSE」はガス抜きのようなものです。
同タイミングにこれだけの曲を仕上げていた事もあり、ミュージコロジーの選曲には非常に意図を感じます。
結果としてプリンスの思惑は当たり、今作は久しぶりのUS最高3位ヒットを放ちます。
(※前作はヒット性が薄いため比べるものではないかもしれませんが、前作のチャート成績はUS109位、前々作はヒット性を狙ったのにも関わらずUS18位でした)
最高3位の成績は1991年発表の「DIAMONDS AND PEARLS」以来です。
プリンスは音楽性の点で時代の最先端を走る、という立場を譲る代わりに、正当な音楽・技術に裏打ちされた音楽を鳴らす、という立場で時代とマッチした訳です。

■曲順の妙

今作は各曲も素晴らしいですが、最も優れているのは曲の並びです。
この作品ではプリンスが80年代に備えていた「アルバム内のバランス感覚」が優れた形で表現されています。
1曲目の「MUSICOLOGY」でのタイトル宣言。
2曲目は「ILLUSION, COMA, PIMP & CIRCUMSTANCE」のそぎ落とされたファンクはアルバム目玉曲でないにせよアルバムの聴き心地を損なわず誘導するスルメ曲。
3曲目の「A MILLION DAYS」でのロックバラード、しかし長尺でないため次曲に疲れる事無く移行します。
4曲目の「LIFE 'O' THE PARTY」でプリンス流のそぎ落としたパーティーソング。1つのアルバムの山場です。
この1~4曲だけ見てもバランスが非常に良い。
またこのアルバムでは中央での目玉曲配置として他にも5曲目「CALL MY NAME」、6曲目「CINNAMON GIRL」、7曲目「WHAT DO U WANT ME 2 DO?」とそれぞれタイプの違う傑作が並びます。
後半もバランスを意識した選曲。
例えば先の7曲目から8曲目「THE MARRYING KIND」9曲目「IF EYE WAS THE MAN IN UR LIFE」まで、曲間が繋がるようなアレンジが入っています。
アルバム1枚聞きとおす事が全く苦痛にならない構成です。


疲れる、苦痛、などネガティブな言葉を使いました。
しかしこの作品より前の10年間は特に、プリンスのアルバムはファンでも疲れる作品が多いのです。
単純に曲数が多く、Segueなど意図の読みづらい曲間を挟む謎アナウンスがあったり…。
Segueも含めてプリンスがトータルアルバムを作ろうとしていた事は分かるのですが、あまり効果的に感じません。
80年代のとりわけ黄金作品と呼ばれるアルバム群はミュージコロジーと同等の展開性と曲数でした。
一時期の変化した要因は、明らかに「レコード→CD」の販売媒体の変化です。
レコードに比べて収録時間が延びた事で16~18曲近い曲を1枚に収められるようになりました。
プリンスは普段から多作家であるためその分の曲を作る事は造作もありません。
しかし聴く側の価値観は変わっておらず、そこにミスマッチが生じていたのです。

ミュージコロジーで中央目玉曲の配置としたのは、レコードのA/B面の意識もあるかもしれません。
この点でもプリンスは一度、視聴者との距離感を図りなおしたのです。

■その後の作品

プリンスは次作の「3121」で超久しぶりの全米1位を獲得します。
この作品も聞きやすさはピカイチでしょう。
その次「PLANET EARTH」も同様の勢いは持っています。


しかし、だんだんとまたやりたい事やるぞモードに入ってきていた気もします。
というのも通常のCD販売から新聞紙にCDをオマケ配布したり、もしくはまた配信販売など、マジョリティな視聴者層から距離を置くような売り方に主体をシフトしていったからです。
プリンスのメディア戦略が時代の先をいっていた、という意見もあります。
しかし私は、プリンスはあくまでその時やりたい事をやる人なのではないかと思っています。
一時期プリンスの演奏動画はYoutubeにアップされるとすぐさま削除される、という状況でした。削除はプリンス自身が依頼したものであり、Youtubeへのアップロード自体を快く思っていなかったように考えます。
これも含めて、プリンスがどこまでメディア戦略を考えていたかは評価すべきです。
それも含めてメディア戦略に先見性があると考えるのも1つではあります。
でも私は、Youtube動画で正規の動画すらアップされて無かった事は割と新規客を逃す要因にもなっていた気がするのです。


ただ、私がプリンスファンとして言わせて頂きたい事は1つ。

「殿下は昔から今まで何一つ変わってないよ!」

です。
ミュージコロジー以降の亡くなるまでの作品はすべて現役感が十分あります。
そして私はすべてが傑作クラスのアルバムであると思っています。


昨年、ミュージコロジー他3作品のBlue-spec CD2での再発売がされましたね。
21世紀のプリンス作品はもっともっと評価されて然るべきなんです。


ミュージコロジー、買いです。